人材が育つことで成長する会社のつくり方

人事評価制度を成功させるための運用の改善ポイント

ここでは、せっかく作り上げた人事評価制度がうまく運用できない理由として、多くの会社で見られる「7つの問題点」を挙げた上で、制度運用のポイントとして具体的に何を改善しなければならないのかを紹介します。

「人事評価制度」こんな運用では機能しない

 多くの会社で運用されている人事評価制度は、「社員と会社の成長を後押しし、経営成果と業績向上につながる会社のエンジン」ではなく、単なる「結果としての査定」としての運用です。図1に挙げた7点は、評価制度のよくある運用上の問題点です。このような運用をしているならば要注意です。以下で、確認してみましょう。

人事制度5-図1

①人事評価表や評価項目が開示されていない

 人事評価制度の存在や評価が行われていることは知っているが、その内容がブラックボックスになっている状態です。つまり、社員は何を期待されているのかがわからないまま、日々の仕事に取り組むことになります。

②評価が年に1~2回、その間チェックやフォローがない

 この場合、問題になるのは次の2点です。

1.評価対象期間が長すぎて適正な評価ができない

 例えば、6カ月前の部下の行動と、先週の部下の活躍やミスの印象を比べると、先週の出来事の方が鮮明に記憶に残っているはずです。評価対象期間全般にわたり公平に評価するのではなく、直近あるいは、評価期間終了時に近い出来事や行動に強く引きずられる「直近効果」や「期末効果」という評価エラーが起きやすくなるのです。

2.求められる行動に対しての修正や強化がなく期中を過ごす

 上司の役割は「期末」に評価をすることではありません。本来の役割は「常時」部下が求められている行動を取れているかを確認し、取れているならばその行動をさらに強化し、そうでないならば指摘・指導し修正することです。

 チェック・フォローすることなく放置しておくと、次のような状況が生まれます。
・望ましくない行動が継続し、会社としても本人としても成果が生まれない
・望ましくない行動を放置しておきながら、期末の評価ではじめて指摘をして、低い評価をフィードバックする。これは、部下からすると「今頃言わないでほしい。なぜ、そのときに指導してくれないのか」と感じ、信頼関係が低下する

 査定であれば、半年後に「できている/できていない」の評価をすればよいのですが、本来の目的は「成果と成長を実現させる」ことです。期中でのチェック・フォローをすることで、
・求められる行動が促され、会社としても本人としても成果が上がる
・求められる行動の増加と上がった成果を認め、高い評価をフィードバックする
・達成感とともに、評価されることによる承認も加わってモチベーションが高まり、ますます求められる行動が増える

 という正のサイクルを回すことができるのです。

③現場運営と評価が切り離されている

 現場運営の質を向上させ、顧客満足度を高めて業績を向上させるために、
「社員に求めるもの=評価項目」
を設計しました。

 そのため、社員に求めるものが実行され達成されているか、その度合いを日々チェックすることは現場運営上当然です。評価のためにチェックするのではなく、仕事が適正に回っているかをチェックするのです。

「現場の仕事が忙しいのに、また人事評価をやらなければならない」という不満が生じるのは、この点について、社員への充分な説明と納得がないためです。

④自己評価がなく上司評価のみである

 人財育成や業績向上につなげるのであれば、「本人が認識している現状」と「上司が評価する現状」と「あるべき姿」とのギャップをそれぞれ共有し、そのギャップを埋める働きかけが必要です。

⑤評価結果のフィードバックがルール化されていない

 評価内容や評価結果が全く伝わっていないケースと、総合評価のみのフィードバックに留まり詳細の説明がないケースです。

 フィードバックをルール化していても、どのツールを使ってどのレベルでどうやってフィードバックするかまでの詳細を、再現性のある仕組みとして決めておかなければ、現場での確実な運用は望めません。制度を作り、一度説明すれば黙っていても現場で実行されるというのは甘い考えです。

⑥本人の成長につながる適切なフィードバックをしていない

 社員へのフィードバック面談で伝える内容が、評価結果やその理由のみに留まってしまっているケースです。

 求められるものとのギャップの共有、ギャップを埋めるための課題の明確化、そして、求められるものができているならば、さらなる「強化」につながらなければ、本来の効果を得られているとは言えません。

⑦人事制度の運用当事者の育成をしていない

 運用に携わる評価者(上司)と人事担当者の役割を明確にせず、また必要な教育を行わないと、手段であるはずの運用そのものが目的化してしまい、制度は形骸化します。

人事評価制度、成功のための運用「7つの改善ポイント」

 以上、7つの運用上の問題点を解決するためのキーワードが図2です。

人事制度5-図2

 では、改善ポイントをひとつずつ解説していきます。

①人事制度の開示と説明会の実施で制度への理解を深める

 制度構築時、あるいは改定時に全社員への説明を行います。

 特に、評価者には制度全体の説明に加えて、部下育成やフォローの必要性やその具体的な手法も教育します。

②月に1回定期面談を実施しチェック&フォローを行う

 正式な評価が半年間に1回でも毎月の定期面談をお勧めします。30分間程度の時間を取り、現状の認識共有と次なる課題の明確化を行い、成長をサポートするための指導・育成を行いましょう。

 また、測定や評価に手間がかからない項目ならば、評価そのものを毎月行い、半年間の評価結果として6回の平均値を使うこともできます。期末には評価が終了しているため、人事評価の作業工数を抑えることができます。

③人事部門から各部門へ役割を移譲する

 人事担当者がすべてをお膳立てして、現場を依存体質にしてはいけません。
・報連相を適切にしているか
・作業標準やルールを遵守しているか
・チームワークを重視しチームに貢献しているか
・経営計画で掲げられた課題解決を行っているか
・業績目標達成のためにプロセス指標を目標通り達成しているか

 などのチェックは、「期末」に「人事部門主導」で行うのではなく、現場運営のレベル向上のために「期中」を通して「各部門」で行います。そのために、チェックの仕組み作りやチェックの役割は各部門に移譲する必要があります。

 期中でのチェックとして、「現場の見える化」と「計画フォローミーティングの開催」をお勧めします。

●「現場の見える化」

 営業業績や訪問件数、改善提案件数や不良件数など、各役割に求められる成果や行動を測定し、個人別にグラフ化するなどで明示することです。「評価」という目的よりも、日々の現場運営の「質の向上」が主な目的になります。

●「計画フォローミーティングの開催」
 経営会議や部門長会議で、業績検討や経営計画の進捗チェックを行いましょう。その会議を通じて、評価項目の中の「経営計画の実行、課題・問題解決」と「成果・業績目標」における実行度合いや達成度合いを確認することができます。得られた結果を人事評価にそのまま反映すればよいのです。

④本人の気付きと成長のために自己評価を行う

 自己評価を行うことで自身を振り返ることができます。また、自己評価についての説明責任を持たせることで、人事評価制度そのものへの参画意識を引き出す効果も見込めます。

⑤フィードバックの詳細をルール化する

 自社の運用レベルを踏まえて、目的と大まかなルールを決めればそつなく実行できる現場力があるのか、詳細まで決めフォローしなければ現場での運用が難しいのかを判断する必要があります。
 後者の場合は、現場任せ、上司任せにせずに、会社としてのフィードバックルールを明確に定め、その実施状況や内容を把握し、PDCAサイクルで必要な課題抽出と教育・研修によるレベルアップを図りましょう。

⑥成果と行動の評価と次なる課題を明確にしてフィードバックする

 全体での評定、各項目の評価、評価理由に限定することなく、良かった点、改善が必要な点のフィードバックを行います。本人の成長とモチベーション向上を促すのが目的です。

⑦評価者(上司)と人事担当者の役割の明確化と育成を行う

1.評価者(上司)の育成
 評価者の育成として必要なのは、「狭義の評価スキル」と「広義の、上司としての部下育成力・マネジメントスキル」です。

「狭義の評価スキル」
 考課者訓練などの研修を実施し評価エラーの知識などを学ぶケースがよく見られますが、これでは研修の効果が薄いと言わざるを得ません。一般論ではなく、
・自社の評価項目、評価基準、実際の行動をどのように紐付けるのか、それをどのように判断、評価するのかをディスカッションし評価基準とすり合わせる
・期初、期中、期末の面談前の準備、面談の進め方、フィードバックの伝え方
という、実践的な濃い内容の研修を実施しましょう。

「広義の、上司としての部下育成力・マネジメントスキル」
 前提として、評価者たる上司に部下育成やマネジメントの基本的な知識・スキルがなければ、良い制度ができても効果的な運用は無理です。「狭義」の評価スキル教育の10倍以上の時間とエネルギーを費やして、「広義」における上司としての部下育成力・マネジメントスキル教育が必要です。

2.人事担当者の育成
 人事評価制度は、一度作ってしまえば自動的に反復継続して効果が現れる静的な仕組みではなく、常に改善することで効果が増す動的な仕組みです。なぜならば、人事制度は人事という閉ざされた領域に限定した仕組みではなく、経営全体との連動性や一貫性が求められるからです。

 既存の人事制度や、コンサルタントに丸投げで作られた人事制度を「いつも通りに運用して、段取りやアナウンス、評価結果の集計と処遇への反映作業を行う」のが、人事担当者の役割ではありません。

 小さな問題点や改善すべき点は毎回必ず出てきます。それを現場任せにしていては問題が解決されないままです。問題点や改善点を拾い上げ、
・現場レベル、運用レベルで解決すべきものか、経営レベル、人事制度改定のレベルで解決すべきものかの区分け
・すぐに解決すべきものか、中期的な課題として解決すべきものかの区分け
を行い、人事制度全体のレベルアップのためのPDCAサイクルを回すのが人事担当者の役割です。つまり、事務担当者ではなく、経営視点を持った経営企画的な役割が求められるのです。

 目的は、「制度を運用すること」ではなく、「社員と会社の成長を後押しし、経営成果と業績向上につながる会社のエンジンとして運用する」ことです。その目的を達成できているのかどうか、常に自己評価しましょう。

 人事担当者には、人事領域の知識・見識のみならず、経営全般を見る目、経営計画から始まるPDCAサポート、各部門・現場をフォローするための信頼感やコミュニケーション力が求められます。

 以上、今回は人事評価制度の運用のポイントを紹介しました。

 人事評価制度の構築や大掛かりな改定を行うには、高レベルの意思決定、多大な工数と費用が必要ですが、「運用の改善」は容易に可能です。運用を改善して、大きな効果を上げたケースも多々あります。今回紹介した運用ポイントをぜひ適用してください。

まとめ

 これまで本連載において、「社員に求めるものを評価するための人事評価制度」の設計と運用ポイントをお伝えしてきましたが、社員に求められているもの、

・発揮度合い
・行動度合い
・達成度合い

の現状を評価するのが「人事評価制度」で、求められる姿と現状のギャップを埋めるための手段が「教育制度」です。

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